《MUMEI》
樹は大きな物音を耳にした。硝子が割れる音だ。
音だけでは我慢の限界で、そっと黒板側の段差に椅子を置いて足を掛ける。扉の真横にある黒板の縁に片足を安定させ、斜めに体を傾けてアクロバットな体勢で扉の上の窓を覗いた。
頭が見えた、一人を八人で囲んでいる。全員男だ。
二人だけ遠巻きに傍観している、一人は煙草らしいものをふかして、一人は白い包帯が片目に巻かれている。斎藤アラタだ。
空気清浄器の勢いよく回る音。
囲んまれている人間は
うなだれていた。
顔は誰もはっきりとは確認出来ない。
アラタはうなだれている相手の耳元で囁くと
後ろにいた男から煙草を
奪い、急に残り六人が囲んでいた人物を取り押さえ始める。
口には何かを詰められていた。
靴を靴下を脱がされ
そして、
アラタの指の間で煙が細かく蠢いている。
ゆっくり足へ近付ける。
男達が一人を羽交い締めにしていて、押さえている彼等がびくびく動き、その隙間から見える頭が跳ねる度、樹は眩暈がした。
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