《MUMEI》

「お怪我は──ありませんか」

頭の上から、優しい声が降ってきた。

顔を上げたら、黒髪に青味がかった目をした若い男の顔があった。

「ぁ、す‥すみません‥」

私はどぎまぎしながら、その人から離れて歩き出そうとした。

「お待ち下さい、お嬢様」

「ぇ‥?」

振り向くと、その人は私にニッコリと笑いかけていた。

「お出掛けの前に、紅茶を如何ですか」

「紅‥茶‥?」

「はい」

「──じゃあ、そうします」

私は、導かれるように、扉に近付いた。

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