《MUMEI》
奮闘編
 都内某所…BAR チェリー PM 1.00時 

 「 お〜ぃこら〜起きろ〜〜起・き・な・さ・い〜よし!なんか〜食べにいこや〜〜…」 
さっきまでカラオケでにぎやかに騒いでいた中年サラリーマン風の男性一人が急に思い出したようにムクッと立ち上がると、カウンターに屈伏しているもう一人の連れを手荒く起こしにかかった…
起こされた男の方は殆んど潰れかけた目で何事かのように大きく首をうなだれて嫌々の身体を立ち上げたがバランスを失って壁に激突してしまった…
「〜(笑)お〜ぃ大丈夫か〜〜」
もう一人が必死に支えている……

「ママ〜〜どぅも〜ごちそう〜さまォ〜また〜ね〜…あと〜お願い〜します〜」一人の方は常連客らしくフラフラの重たい頭を深々と下げるや否や貴子にむかって振り返りながら盛んに投げキッスしている。

「ねぇ!ちゃんと 帰るのよ〜 」 
貴子は急ぎ足で追いかけようとカウンターから出ていく…が、その際のアタマを横にして気持ちよさそうに寝ていた常連客の桜とぶつかった!
「んっ…なに〜〜!」
桜のアタマが翔んだ…

おっとォごめんね〜」
桜がゆっくりと顔もたげるとママの姿は言葉と共にもう店の外に消えていた……

いつものことだがフラフラな千鳥足で夜の帳を我が物顔で徘徊する男たちのうしろ姿を見送りながら…貴子には…何故か自分がつくづく男に生まれなくてよかった………と、思えるのであった…。

「ォごめんね〜桜ちゃんォ」ママの貴子はすぐに店の中に戻ってきた。 

「ママぁ〜〜ふぅ〜 外はどぅ… お客歩いてる〜 」 
桜はタバコをふかしていた。
桜は先ほどまでカウンターの中央で、にぎやかに店を仕切っていたその酔っぱらい二人組の相槌係にさせられていたが飲み過ぎたのかいつのまにか眠り込んでしまっていた…

 桜は椅子を伝いながらダルそうにカウンターの真ん中に陣取った 。

店には 常連の桜だけで他には誰もいなかった 。

「ねぇ ママ〜 ちょっと〜お水ォ水ちょうだい !」
桜はコップの水を一気に飲み干すと またグタァ〜とカウンターに腕を伸ばした…かと思うと…急に背筋に力をいれたように開き直り… 

「ねぇ… ママ〜 ちょっと話し聞いて……くれる 」
貴子は 桜が店にやって来たときから…桜の見えない悩みに気付いていた 。

酔魔はもうどこかに行ってしまったようだった 。

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