《MUMEI》 愛は会社を救う(22)由香里は、唖然とした表情でこちらを見つめている。私は空気を読んで、少しおどけて見せた。 「…なんてね。少し酔っ払いました」 それを聞いて安心したのか、由香里がクスクスと笑い始める。 「赤居さんって、変な人なんですね」 「そうでしょうか」 「だってまだお給料も貰ってないのに、初日からこんな高いバーでお酒を飲んで。それに、何だかお店の雰囲気にも馴染み過ぎてます」 実際は決して高い店ではなかったが、入社3年めの由香里には、そう感じたのだろう。勤務初日、40絡みの派遣社員が若い女子社員を誘ってバーで飲んでいる。その点に関しては、不審に思われても仕方がなかった。 「赤居さんって…どういう方なんですか?」 「どういう方って、何に見えますか」 「そう…もしかしたら」 少し悪戯っぽい眼をした由香里が、私の顔を下から覗き込みながら耳打ちする。 「産業スパイ…とか」 一瞬の沈黙の後で、二人は同時に吹き出した。彼女となら、良いパートナーになれそうだ。 「さ、次は高級なレストランでディナーにしましょう。時給1000円の産業スパイがご馳走しますよ」 前へ |次へ |
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