《MUMEI》
愛は会社を救う(23)
「お湯のポットじゃなくて、お茶のポットが先でしょ!」
ケトルで沸かしたお湯を入れる順番を、青地知子がまくし立てる。
「ティーバッグは出るまでに時間がかかるの。だからお茶のポットが先。ちょっと考えればわかることでしょ」
「申し訳ございません」
月曜日の朝、狭い給湯室の中で、私は知子からお茶当番の指導を受けていた。
その間、頻繁に女子社員たちが出入りしていたが、私たちと目を合わせようとする者は一人もいない。
給湯室には2つのポットがある。一方は焙じ茶のティーバッグを直接入れてお茶を作り、もう一方には白湯を用意してインスタントコーヒーなどを作れるようにしていた。
「支店長と副支店長へはお茶を持っていかなくていいわ。それ以外の全員のお茶碗を覚えてちょうだい」
「わかりました」
毎朝お湯を沸かしてお茶を淹れ、30人ほどの社員全員の机に配る。それを、女子社員が当番制で行う。そんな古めかしい習慣が、この職場には残っていた。

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