《MUMEI》
愛は会社を救う(24)
「おたくも大変だねえ。やらされちゃってんだ、お茶当番」
お茶を配る私を同情の眼差しで見上げて、そんな軽口を叩いたのは、営業グループのリーダー・仲原勝郎だった。50代前半、七三分けに銀縁眼鏡をかけ、実直そうな見た目の割りには言葉滑らかにしゃべる。営業のプロだ。
「いえ、自ら志願いたしました」
「志願!あんた物好き?それとも女好き?」
さすがの私も、覚えず口元が緩んでしまう。
「いえいえ。皆さんの顔を早く覚えたいと思いまして」
「ああ、それそれ。そこ大事な所よ」
まるで性格俳優のように臨機応変、表情も豊かだ。
仲原はふいに手招きのような仕草をし、私に顔を近付けるよう促す。
「女ども、新しい仕事をやらせようとすると"それなら男性にもお茶当番に加わってもらいます"とか言いやがんだよ。つまんねえ事、盾に取ってんじゃねえよな」
その愚痴とも取れる憎憎しげな言葉に、私は苦笑した。
「お茶でもコーヒーでも、部屋出りゃ自販機あんのにさ。まあ、来客に紙コップってわけにもいかんのだろうけど」

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