《MUMEI》

 
 目が覚めると、一番に考えることがある。

 彼は誰なのだろうか。

 そう、毎回と言ってもいいほどの高確率で夢に、正体のわからない人物が現れては、私となにかしら関わりを持つ。それも決まって、“或る男”なのだ。
 なぜ正体がわからないかというと、顔が確認できないのである。

 夢のなかで、自由に自分の意思で動き回れる人もいると言うが、私の場合、まるで決まったストーリーを歩かされているような……どこか現実味の欠ける夢しか、見たことがない。
 彼もまた、私の夢に出てくるのにも関わらず、私の意思とは関係なく、私に顔をさらすことはない。
 ただ、どこか知り合いのようで、時には、私と親密な関係のストーリーを見る。

 前世なのか?

 私は前世や来世を信じるタイプに属すが、宗教を信仰するつもりはないのだ。哲学や宗教の教えを取り入れ、自分なりの理論を確立する。そうやって生きてきた。
 そうは言っても、結局はいろいろな教えをかじっているだけに過ぎないのだが……。

 彼は、前世での知り合いなのだろうか?
 そうだとしたら、なぜこうも夢に現れては存在を主張するのだろう?
 ……運命の相手? まさか。

 私は自分をあざ笑う。
 運命の相手だなんて、あるはずがない。

 私はずっと、人に嫌われて生きてきている。
 そう言うと大袈裟かもしれないが、恋が実ったことなど、一度もない。

 半ば、諦めている。
 私には運命の相手など、用意されているはずがない。
 こんな私は、生きる価値も危うい。そんな考えを、日ごろから持っていた。

 それも全部……中学のころに受けた、“いじめ”が原因だった。
 

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