《MUMEI》

 
“いじめ”
 時には、人の命まで奪うその行為は、未だこの世には息を潜めている。おそらく、この低脳な人間社会で、なくなることなどないのだろう。

 中学に上がる私には、いろいろな不安があった。
 勉強に、ついていけるだろうか。
 今までの学校生活とは違う。そう言い聞かされてきた私たちは、一人ひとり、いろいろな不安を抱えていたに違いない。

 今思い出すと、私は小学校のころから、違うクラスの男子からからかわれていた。
 それはきっと、私が成長期に入り、体型が醜く変貌したからだろう。小学校のころは、そんなのを気にしたことなどなかった。
 ただ、担任教師からの一言で、明らか給食、いや、食べることに対する嫌悪感が生まれたのは否めない。

「芳野さん、少し、食べる量を減らしたほうがいいわね」
「え?」
 教師はある日、給食の時間に入る前に、私を教室のはじに呼び、私の健康診断の紙を広げながらそう言った。

 そうか……体重が重いことは、いけないことなのか。

 私は単純に、そう解釈してしまった。いや、そう解釈することしか、できなかったのだ。

 そしてある授業中……突然放送が、校舎内に流れた。

「今から名前を呼ばれた人は、保健室へ来てください」

 ざわつく教室。
 そして、読まれ出す様々な氏名。最後に、私の名前が上がる。
 教室の空気が一瞬固まる。
 一気に、みんなの視線が私に注目する。
 恥ずかしい……。
 私は顔全体に多大な熱を感じながら、教室を出る。
 出るときにみんなが、いってらっしゃいと見送ってくれたのは、やっぱり仲のいいクラスならではだと、今でも思う。

 保健室に着くまでに、いろいろと考えた。

 どこか悪かったのだろうか?
 それとも、なにか、特別な授業でも受けるのだろうか?

 小学生の私は、未だ肥満などという言葉も知らず、太っていることが恥ずかしいことなのだということすら、知らなかった。

 保健室に着くと、名前を読み上げられた生徒が数名いる。
 そのなかに、幼稚園からの幼なじみも紛れていた。
「さっちゃん、これ、なに?」
 私はその幼なじみのさっちゃんに、いったいなんの集まりなのか聞き出した。
 それは、肥満傾向にある生徒を集め、再び体重を計るために呼び出されたらしい。
「肥満……?」
「そうらしいよ。うちら、太りすぎなんだって!」
 笑いながらも、どこか困った様子を浮かべるさっちゃん。
 

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