《MUMEI》

 
 一部の男子が教室を占領し、ボールを投げ遊ぶということをするようになった。
 危険と居づらさを感じた女子と残りの男子は、教室からそそくさと退散し、他の教室や廊下で過ごすようになっていった。

 ……なんで逃げるように、教室を出なきゃならないの?
 みんなの教室だし、ボールを遊ぶのは外でするべきでしょ?
 私は不満が募り、あるときから、退散する人たちと一緒に教室を出ることを止めた。

「あれー? 芳野は廊下に出ないの?」
「芳野は、なんで教室にいんのかな?」
「さあ?」
「ほら、危ないよ〜?」

 口々に男子が私に話しかけ笑いながら、ボールを飛ばす。
 時折ボールが私に当たり、ごめんと笑いながら謝る男子。
 正直、混じって遊びたい気持ちでうずうずしていた。
 私だってボールで遊びたい。
 しかも、男子と遊ぶほうが楽しい。そう感じていた私に、その疎外感は、かなりの苦痛だった。
 人見知りではないのに、引っ込み思案で……いざというとき以外、なかなか自分の意思を主張することができなかった。

 段々と私も、男子を敵視するようになり、また逆に、意識することで、なんだかわからないような、変な気持ちにもなっていった。
 初恋は幼稚園で、それからずっと、好きな人がコロコロと変わっていた私も、中学になって更に、“男子”という存在を意識するようになったのだ。

 ただ、そのころから、男子が私に対する気持ちは、「気持ち悪い」というものだけだっただろう。

 見た目で決まってしまう。

 そのころから、そう思い始めていた。

 それでも、なかには、仲良くしてくれる男子もいて、私はその人たちとよく遊んでいた。
 そして、そのなかで、段々好きという気持ちを持つようになった相手がいたのだ。

 ただ、やはりその人とは、上手くいかず、同じクラスの男子たちにからかわれるのが、嫌だったのだろう。
 段々と疎遠になり、私も段々と笑うことが減っていった。

 それでも、未だ笑うことがある私で、だから、男子は、甘くみていたのだろう。
 未だ大丈夫だろう。
 きっと、そう思っていたに違いない。

 私は二年に上がる前、恋をすることを止めた。
 私に恋はできないのだ。
 この見た目じゃ、誰も好きになってくれないのだ。
 そう決めつけた。そう決めつけざるをえなかった。
 

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫