《MUMEI》

「ワンッッ!!」


大きく吠えて、ケルベロスは亜柚乃の方へ、駆け出そうとする。
それを、首に繋がった鎖が、引き止めた。


「今日も元気みたいね。」

亜柚乃は優しく笑う。

ケルベロスは、この学校の事務員が飼っている、大きな犬だ。飼っているとはいっても、もともとは校内に迷いこんできたらしい。
真っ黒な毛並みの雑種で、人なつっこい。ここのアイドルのような、存在だった。


「久しぶりだね。」
「クゥン。」


頭を撫でれば、幸せそうに目を閉じる。
亜柚乃は、ケルベロスの名付け親だ。彼の方も、亜柚乃には特に甘えた。

ゆっくりと流れる時間。
暖かな香り。

ふと、ケルベロスが顔を上げた。

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