《MUMEI》
暗躍
 モスクワ 「ロシア内務省前」 


サングラスをかけたスーツ姿の男が内務省から濃紺の車に乗って走り去った

何故か左手だけ黒い革手袋をしたそのサングラスの男は街の中を乱暴な運転で駆け抜けながら旧市街へと入っていく……

車はポプラ並木や街灯が立ち並ぶかなり古そうな五階建てのアパートの前に停車した 。 


ドアに鍵はかかっていなかった…… 昼間にして部屋の中の黄色い薄暗さはカーテンを閉めきっているからだろう 部屋の中アチラこちらに立てられた蝋燭の灯りが影を異様に揺らしている 

壁紙は 民芸品や奇妙な人形たちが無造作に置かれた棚で占領されていた。
それよりもこの部屋の中で目を奪うのは…大小さまざまな色美しい鉱物石の多さだった……。 

「だれ……… 」 奥の部屋から 低い女の声がした 
「…ミーシャ ?」 

サングラスの男はその鉱物群を見ながら黒い石を一つ取り上げるとゆっくりと声の主の方へ近づいていった 

…女は刺繍にちりばめた黒のショールを頭からすっぽり被り、机の上に置かれた大きな水晶の中を見入っていた 

「オルガ……その後連絡は……… 」 
男は女の対面に置かれた椅子にどかっと腰を下ろすと手にしていた黒い石を机の上に置いた 

「ええ…  あったわ……」女は名前をオルガと言い この街で占い師をしていた。

「…それで……なんと……」 
男は足を組むとだらりとした姿勢で我を忘れたかのように両手で水晶を押さえながら見入っているオルガを見つめた 

「どうやら…成功したみたいよ…… 」 
そう言い終えると オルガはやっと水晶から自分を解き放した 

「……そうか… じゃあ もうできたんだな……… …奴の今度の休みは……確か二週間後か…… 」 

男は足を解き椅子から立ち上がる 

オルガはそのサングラスに隠れている男の内なる(奥)をじっと見つめると、薄く微笑みながら小さくあごを二度ばかり突き上げてなにやら催促して見せた 

「…じゃあ… また連絡するからな……  」 

サングラスの男は背広の胸ポケットから札束の入った封筒を机に投げ置くと… ゆっくりと部屋から出ていった 

オルガは男が車に乗り込むまでその姿を追いながら…部屋の鍵をガシャリと回した 。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫