《MUMEI》

「どうぞ──」

「うん、ありがと」

コート着せて貰うなんて──小さい頃以来だな、なんて思いながら、あたしは2人の執事にお礼を言った。

そしたら、ヒナタ君もヨヅキさんも、ちょっぴり照れて俯いた。

何だか、ほんとに兄弟みたい。

「で‥では、お気をつけて──行ってらっしゃいませ」

「お帰りを──お待ちしております」

「はいっ。じゃあ──行って来ますっ」

「──ぁっ、お嬢様」

「?」

キョトンとすると、ヒナタ君はパタパタと走って行って、それから、何かを持って戻って来た。

「これ──お嬢様のですよね」

「──ぁ」

腕時計──外したまま椅子に置いて来ちゃってたんだ。

「ありがとね」

「──はいっ」

元気よく答えたヒナタ君と、優しく微笑むヨヅキさんに手を振って、あたしは外に出た。

──風が冷たい。

でも、何だか心があったかく感じるのは‥素敵な執事達の、おもてなしのお陰かな──。

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