《MUMEI》

 
 青……ボクの好きな色。
 クールだと言われるけど、違うんだ。ただ、ただ、ボクは、青が好き。

 彼女の好きな色が、青だったから。

 彼女と出逢ったのは、バイト先のコンビニだった。
 ボクはいつものように仕事をこなしながら、窓の外に見える道路を眺めていた。
 ただただ、眺めていたのだが、そこに白いものが急に現れて、ボクの意識はそれに集中する。
 白いものは人で、遠くからでもわかるその唇の赤を、今でもはっきり覚えている。

 彼女がこちらへ向かってくる。
 慌てて止まっていた手を動かしながら、ボクは彼女がこのコンビニに入ってくるのかだけが気になっていた。

 次の瞬間店内に音が鳴り響き、彼女が入店したことを知らせる。
「らっしゃいませー」

 自然に、なるべく自然に振る舞おうと、ボクは彼女を見ずに手元だけを見つめる。しかし意識は彼女にあり、彼女の足音に聞き耳を立てているのが周りから見てもわかってしまうだろう。
 自然に……自然に……。
 ボクは鼓動が波打つ速さに耳を傾け、落ち着こうと必死になっていた。
「すみません」

 とっさに顔を上げると、彼女がボクの前にいた。
 しばらくの沈黙……それを破ったのは彼女だった。

「あの……」
「あ、すみません! なんでしょうか」

 ボクは彼女に見とれていた。
 透明なのではないかと思えるような綺麗な肌に、あれほど印象的だった唇の赤だが、口紅をひいているとは思えないような自然色で、ボクを吸い込んでしまうのではないかと錯覚させるほど大きな瞳で見つめられ……ボクは、彼女に恋をしたのだ。

「これ、ください」

「あ、はい」
 ボクは差し出された品物を受け取り、レジを打つ。

 ……ん?

 手にある品物に、ボクは違和感を覚える。

 ……これは!

 ボクは汗を滲ませながら、彼女を見送った。
「ありがとうございましたー」
 って、連絡先聞き忘れた!
 彼女を見送ったあと、自分の失態を悔やんだ。

 しかし、彼女……きっと彼氏持ちなのだろう。
 買っていった品物で、ボクは勝手にそう思った。

 そう……彼女が買っていったのは、一箱のコンドーム。
 

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