《MUMEI》

 
「好きです!」
 俺の前に、俺より背の低い女人が真っ赤な顔をして立っている。

 なんでこんなにも、女人は俺に“告白”というものをしてくるのだ?
 付き合えたとして、なにがしたいのだ。

 まったく興味がない。
 恋人関係も、恋愛自体も。

「悪い」
 ひとことで終わらせる俺が、悪いのか?
 目の前の女人の瞳から、冷たい涙が溢れ出す。

 構っている暇はない。
 構っていたらキリがないと言ったほうが、正確だろう。

「それじゃあ」
 炎天下のなか女人を一人残し、俺は駅に向かった。

 こんな時期に、俺はいったいなにをしているのだ。
 一番稼ぎ時だというのに。

 まあ、年中稼げる仕事だとは思っているが、暑い時期は、怠けたいのか、暑さでストレスが溜まっているのか……女人が俺を必要とするらしい。

 俺は、女人に安らぎを提供する「花冠王子」
 ネーミングに満足はしていないが、オーナーが凝ってつけたらしいから、文句は言わない、ようにしている。

「澪、今日もよろしく、お得意さまの美香さんだから」
「なんで俺? 美香さんは勇二担当でしょ?」
 俺は携帯片手に、駅のホームで電車待ちしている。

「そう言わないで、ね! 勇二、今日は急な予約で、新規さんのとこ出張中なの!」
「新規? 珍しいじゃん」
「でしょ? なんか、知り合いに聞いたとかで、予約入れてくれたんだよ。だから、お願い、澪!」
 ふーん……新規か、勇二いいな。あいつ、いいとこ、とっていきやがったな。
 鉄格子に腕を乗せ、体重をかけて体の疲れをなすりつける。

「やだよー美香さん苦手だから……」
「澪! それは禁句っつったろ!」
 オーナーの怒声。
 ……ったく、わかってるよ。
 声変わりすぎなんだよ、オーナーは。
 オーナーは怒ると、急にドスのきいた声色に変貌する。

「りょーかい。とりあえず行く」
「じゃあ、よろしく!」
 電話を切ると、ため息が漏れた。
 美香さんか……さあ、あのお嬢さま、今日のご機嫌はいかがかな?
 

次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫