《MUMEI》

 
 あれからボクは、彼女のことを忘れられないでいた。

 彼氏がいるんだと言い聞かせても、ボクの頭は彼女でいっぱいで、仕事でミスを連発するようになっていった。

「お前、最近、たるんでるんじゃないか?」
「すみません」

 ボクは謝りながらも、彼女のことを考えていた。

 白い服を身にまとう彼女の肌も白く美しく、赤い唇は口紅を塗ったような不自然な色を持たず、吸い込まれるような瞳に映された微かな影……清楚な顔立ちに似合わない、あの買い物。
 ボクは完璧に、心を奪われていた。

 綺麗だから? もちろん、それもある。だけどなにか、なにかボクに似た部分がある気がしていた。勝手にそんなことを思っているのだが、彼女はあれから一度もやってこない。
 もう一度会って、彼女の内にあるその“なにか”が知りたい。

 ボクと彼女に共通するものがあるなんて、図々しい気もするが、ボクはなぜか確信していた。
 

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