《MUMEI》
苦い想い
『あ…』

うわずった声がでた。

心臓がうるさい程に激しく鳴る。

どうしよう…

僕は…

『翼』

名前を呼ばれてビクリと肩が震えた。

隼人と見つめあった。

隼人の頬が少し赤い…。
きっと僕は真っ赤だろう。

『隼人…僕『ゴメン!!翼…』

いきなり謝られた。

『はぃ?』

まぬけな声が出て、慌てて口を押さえる。

『翼、悪い!!ころんじまった。見た?やべ。恥っず〜///』

隼人はアハハと笑った。
転んだ…?

『あっ…ははは!!だーよね!!実は僕もころんじゃってさぁ!恥ずかしいなぁ』

視界が揺れた。

『翼?』

隼人の声が遠くに聞こえる。

熱い液体が目から溢れ出た。

やば…。
僕今泣いて…。

拳で涙を拭って、雑巾を投げだし、鞄を机から掴みとると僕は教室から走り出た。

『翼っ!!』

後ろで隼人が呼んでるけど振り返らない。

振り返れない。

僕の顔は涙でびしょ濡れだ。

『翼!!おい、待てよ翼っ!!』

バタバタと後ろで足音がする。

まずい。

隼人は足が速い。

追いつかれる!!

『待てったら!!翼っ!翼っ!!』

ゴシゴシと唇を制服の裾で強く拭いた。

さっきのは事故だ。

事故。

強く擦りすぎて唇から血が滲んだ。

『翼!!』

右腕を掴まれた。

無理矢理隼人の方を向かせられる。

『っ隼人…』

『お前…泣いてんのか?』

『め、目にゴミ入っちゃっただけ…』

いきなり、キツく隼人に抱き締められた。

『ゴメン。男とキスするなんて嫌だったよな…。直接じゃなくて良かった…』

隼人の心臓の音が聞こえる。

すごく早い。

『事故だからしょうがないよ…。ゴメン。僕帰るね。また明日』

案外簡単に隼人の腕を抜けられた。

嫌じゃなかった。

事故じゃなかった。

嬉しかった。

悲しかった。

恥ずかしかった。


僕は泣いていることを気付かれない様に、上を向きながら走って帰った。

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