《MUMEI》
不思議な気持ち
(そういえば、俺、昔、忍に犬みたいだって言われたよなぁ)


もしかしたら、今の拓磨みたいだったかもしれない。


「何だよ、祐也」

「いや、…別に」


前言撤回。


俺は、こんなに周囲を威嚇しなかった。


ただ、旦那様の側にいたくて、できるだけ近くにいた。


あの頃は、俺の世界の中心にいたのは旦那様だけで


言い方は悪いが忍や衛はおまけのような存在だった。


(そう考えると不思議だな)


俺の心の中に、旦那様との思い出は確かに一番大切なものとして存在しているが


俺は今、普通に旦那様以外の多くの人間に関わり


こうして、笑っている。


(これが、旦那様が俺に望んだ事なのか?)


考え込んでいると


「祐也? どうしたの?」


志貴にTシャツを引っ張られた。


「…何でもない。お腹空いただけ」

「そう?」


俺は頷き、志貴と皆の元に向かった。


拓磨はいつの間にか厨房に戻っていた。


「じゃあ、いつもの」


俺達が来ると、果穂さんは店長にそれだけ伝えた。


店長は笑顔で頷き、厨房に入って行った。

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