《MUMEI》 脱出強気のあきらが、両目をきつく閉じ、白い歯を見せて耐えている。 この表情が意外にセクシーなので、コングは興奮した。 「ぐふふふ。降参?」 「くううう…」 「降参?」 音。 「ん?」 コングは音のするほうを見た。廊下を急カーブしてフォークリフトが突進して来る。 「あああ!」 リフトを運転しながら叫ぶ宏。コングは慌ててあきらから離れた。 「バカ止まれ!」 フォークリフトの爪が迫って来る。あきらは素早く立ち上がると、愛梨のもとへ走った。 「愛梨!」 あきらは愛梨の手を引き、壁に身を寄せた。 二人ともスリムだからリフトを交わせる。 しかし185センチ、185キロのコングは、逃げ道がない。 「あああ!」 リフトが迫る。 「バカ止まれ!」 コングは走る。行き止まり。リフトに止まる気配はない。コングは窓ガラスめがけて飛んだ。 ガシャーン! 破片と一緒に地面に顔から行った。 「がっ…」 コングは額から流血。思わずカメラ目線でぼやいた。 「し…死んだかもしれない」 ガクンと気絶。 宏がリフトを降りると、あきらが言った。 「宏、ありがとう」 宏は思いきり照れた。 「いやいやいやいや、そんなそんな」 あきらは呆れた。 「そういうときは、大丈夫かって、渋く決めるんだよ」 「あきらは映画の見過ぎだよ」 「うるさい」 そのとき、外から大音量が聞こえた。 「君たちは完全に包囲されている。人質を渡し、速やかに出てきなさい!」 「警察だ!」 三人は急いだ。 「今だ!」 外に出ると、パトカーが見えた。大勢の警察官がいる。 愛梨は走りながらあきらに言った。 「あきらチャン、宏さんは関係ないって言おう」 「警察はそんな甘かないよ」 「でも…」 宏は無言のまま走った。 居酒屋の小林店長が叫ぶ。 「愛梨!」 「店長」 小林店長が抱きしめようとしたので、浴衣姿の愛梨は、巧みに身を交わした。 「おととと、おととと」 ふざけている場合ではない。 探偵事務所の宮川は、冷静に言った。 「あきら」 「大丈夫です」 傍らにいた大林警部も、優しい眼差しであきらを見つめた。 「あきら」 「お久しぶりです警部」 「うん」警部は頷くと、宏の顔を見ながら聞いた。「あきら、この人は?」 「一味の者です」 「何?」 刑事たちは構えた。 「違うんです!」と泣きそうな顔をする愛梨をあきらは腕で制した。 「警部。この人は、改心して、あたしたちを助けてくれたんです」 大林警部は険しい表情で、俯く宏を見た。 「そうか」 刑事が宏の腕を掴んだ。 「話は署で聞こう」 荒々しくパトカーに乗せられる宏。あきらは刑事に言った。 「刑事さん。この人が助けてくれなかったら、あたしはレイプされていました。命の恩人です。丁重に扱ってください」 刑事は真顔であきらを見つめた。 「わかった」 パトカーの中から、宏が見る。あきらは軽く頷くと、背を向けた。 大林警部があきらに聞いた。 「では、中にはもう人質はいないんだな?」 「はい」 「よし」 大林警部は、全軍に突撃命令を発した。 「かかれ」 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |