《MUMEI》
悪魔くん登場
 その日は一日中爽やかな青空だった 

次期に雨の季節を迎えたなら……すぐにまたクーラーなしでは居られないような蒸し暑い夏がやってくるに違いない 


朝から七階にあるマンションのベランダ越しに座り込み、通りを行き交う人々や吸い込まれるほどにわたしだけの空を眺めていたら…いつのまにか太陽は裏山へと消えていた 

宏介はその日付けっ放しのままだったTVのスイッチを切るとデスクに置かれた二通の封筒に目をやった  

「………とうとう…… 
 最後の日が来たか………     」 そして深く大きくため息をつくとリビングの音楽プレーヤーのスイッチ入れ……台所へ向かった…

そして手を伸ばし棚を開けると生前美沙子と二人でその値段に迷いながらもひとつ位は高級品を…と、思いきって買いながらもまだ一度も使わずに眺めてばかりいた碧い星の天使たちが描かれたマイセンのコーヒーカップを二つ取り出し湯沸し器で軽く洗いはじめた 


焼き上げた二枚のトーストにジャムとピーナッツバターをそれぞれにたっぷりと塗りつけた宏介は…好きなピーナッツバターの方を自分の皿におく 
「…おまえはジャムが好きだったからな… 」 
手前のもう一皿の方へジャムのトーストをおくと二つのマイセンのカップに…はじめてのコーヒーを注いだ… 
ミルクをゆっくり流し入れ味わうコーヒーはまるで二人の物語を語るように軟らかで秘めやかな…
そして哀しい味がした…


宏介はトーストを食べ終えると
数えきれないくらいの白い錠剤を喉に流し込み、水を飲み込みそれからまたコーヒーと白い錠剤を飲み込みながら水を飲み…
といった行為を何度も繰り返した 


充血して腫れたように霞んだ宏介の目からは…涙が途切れることなく溢れだしていた 。

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