《MUMEI》 「ありがと、ルキア」 「──どう致しまして」 ルキアはまた、ニッコリ笑った。 「では──少々お待ち下さいませ。只今、コートをお持ち致します」 ルキアがコートを持って来てくれるまでに、そう時間は掛からなかった。 私にコートを着せてくれてから、玄関先まで連れて行ってくれて、 「では、お嬢様」 ルキアは、澄んだ声で言った。 「お気をつけて行ってらっしゃいませ。お帰りを──お待ちしております」 「行って来ます」 ルキアにそう言って、お店を出た瞬間──私は『お嬢様』ではなく、いつもの玲に戻った。 そして暫く、何だか、魔法が解けたような──不思議な気分がしていた。 前へ |次へ |
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