《MUMEI》
高下
そろそろ降りるか、とユウゴが梯子に足を掛けようとした時、下に人の姿が見えた。
「やべ。人がいるぞ」
小声でユウゴは二人に告げる。
「なんで?」
ユキナも小声で返しながら、頭だけをそっと覗かせた。
下に見える人影は五人。
いずれもまだ若い。
その内、二人は少女のようだ。
「ああ、大丈夫。僕の友達だよ」
サトシはそう言って、先に梯子を降りて行ってしまった。
「友達?」
「仲間ってことか」
ユウゴは納得し、サトシに続いた。
「ああ、兄ちゃん。僕、もう行くね」
下に着くとサトシが言った。
「え、行くの?」
ようやくユキナも梯子から降りてきた。
「うん。もともと下水道でみんなと落ち合う約束だったんだ」
「そうか。悪かったな。俺たちのせいで手間かけたみたいだ」
素直にユウゴが謝ると、サトシとその仲間たちは笑って頷いた。
「じゃ、僕たちは行くね二人とも、気をつけて」
「ああ、お前らもな」
サトシたちはそれぞれ頷いた。
「これ、餞別」
サトシが仲間から受け取った赤い箱をユウゴに投げて寄越した。
開けてみると、中には弾丸が詰まっている。
どこでこんなものを手に入れたのか疑問に思うが、ありがたく受け取ることにした。
「サンキュ」
サトシは頷いて応えた。
彼らは来た時と同じように、下水道へと消えて行った。
最後にサトシがマンホールの穴へ入りかけた時、何かを思い出したように振り返った。
「そうだ。一つ忠告しとくよ」
「なんだ?」
「僕たちと同じ年頃の高下っていう奴が鬼にいるんだ。あいつには気をつけた方がいい」
「高下?」
どこかで聞いたことがある。
考えるユウゴにサトシは頷いた。
「すでにあいつのグループは二十人ぐらいになってるらしい。冷静に、そして確実に子を狩ってる。気をつけて」
そう言い残し、サトシは暗い穴へ消えて行った。
ユウゴとユキナの体にジトッとした汗が纏わり付く。
「……高下ってだれだっけ?」
少しの間を置いてユキナが首を傾げた。
「あいつだ。昨日、十人くらい仲間引き連れて、家に隠れてる子を探して殺してた」
そう、人殺しを楽しんでたあの連中。
どうやら、あれからさらに仲間を増やしたらしい。
「たしかに、あいつは冷静な分だけ、他の奴より危険だな。一番、会いたくねえ」
「しかも、人数増えてるし?」
二人は顔を見合わせた。
「……とにかく、移動するか」
しばらくの沈黙の後、ユウゴが言った。
「そうだね。とりあえず、この危険すぎる地域から出たい。あ!でも下水道はもうカンベン!!」
ユキナは両手を拒否するように前へと突き出した。
「えー。じゃあ、あの大通りを突っ切んのかよ?そっちのが俺的にカンベンなんだけど」
「別に大通り通らなくてもいいじゃん。裏通り探してさ」
「その道を探すのは誰だ?」
ユキナは無言でユウゴを指差した。
「……ちょっとは自分で考えろ」
ユウゴは軽くユキナを睨むと「行くぞ!」と、建物の扉を開けた。
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