《MUMEI》

少女の態度に苛ついた男は、少女の頬をつまんで抓った。

「いひゃいいひゃい! ……なにすんのー!? ひどいよー!!」

叫びながら少女は飛び起きた。彼女の声の大きさに、男は尚更苛ついた。安眠妨害されたのは男とて同じなのだ。

「……五月蝿い。俺を無視して二度寝しようとしたお前が悪い。」

「へ? 無視なんてしてないよ? しかも二度寝って何?」

「…………」

少女は寝ぼけていたのか何も覚えていないようだ。男はまた溜め息を吐く。

「……いい。それより何故俺のベッドで寝ている。」

「だってやっぱり一人じゃ寂しいんだもん。」

少女は上目遣いで肩をすぼめて答えた。少女はとても可憐であるから、普通ならこれでメロメロになってしまうだろう。しかし男は違った。

「だからといって甘やかすつもりは無いと何度も言っている。」

男のポーカーフェイスや自制心は類を見ない程だが、今回それは関係無い。ただ単に美醜等に興味が無いだけなのだ。

「ちぇっ。いーもんいーもん。『聖者ヴァン』は男色家だって言いふらしてやるもん。」

「俺を振り切れる自信があるのか、ルキア。」

男――ヴァンデクス・ペネトレイターがそう言い放つと、少女――ルキア・プリベンターは頬を膨らませた。

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