《MUMEI》

「……おい、ちょっと待て。」

ルキアはぶーたれながらも眠る準備をしていた。だというのにヴァンに見咎められた。ちゃんと従ったのに、と思ったルキアは今度は本気で文句を言う。

「なんでよー? 寝ようとしてんじゃーん。」

「自分の部屋で寝ろ。」

「今更ー? てゆーか寒いって。」

「…………」

一瞬それもそうかと納得してしまった自分に自己嫌悪しつつ、ヴァンは溜め息を吐いた。そして、最近溜め息の数が増してきたなと思いながらルキアに告げる。

「……ならいい。ここで寝てろ。」

「ホント!? やった!」

諦めた様子のヴァンのことを知ってか知らずか、許可を貰えたのでルキアは喜んでいる。

「まったく……」

ヴァンは気付いていなかった。

笑顔のルキアを見て、穏やかな気持ちになっている自分に。

だがそれも詮無いこと。彼は穏やかさとは無縁の生活を幼い頃から送って来たのだから。

自分の中に芽生えた暖かさになど気付かないだろう。気付いたとしても、正体までは分からない。誰かが教えてやらない限りは……

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