《MUMEI》 バスタオル佐藤以下、一網打尽にして、黒幕の疑惑がある漫画家も、重要参考人として警察署に連行された。 これで一件落着に思えたが、あきらのもとへ連絡が入った。宮川所長からだ。 「はい」 『あきら。大変だ。佐藤が脱走した』 「え!」 あきらはすぐに愛梨に電話をかけた。 「はいはい」 愛梨は部屋にいた。風呂上がりで、バスタオル一枚だ。 あきらは切羽詰まった声で聞く。 『愛梨、今どこにいる?』 「部屋よ」 『一歩も外に出るな』 「出れないよ、裸だもん」 『バカ、すぐ服着ろ』 「バカとは何よ?」愛梨はムッとした。 『佐藤が脱走した』 「え!」 愛梨は目を見開いた。 「脱走って?」 『すぐ行くから、だれが来てもドアを開けるな!』 「わかった」 電話を切ると、愛梨は戸締まりを確認した。ドアも窓も大丈夫だ。 「着替えなきゃ」 愛梨は全身鏡の前に立った。そこには、あってはならない姿が…。 足がすくんだ。愛梨は震えながら後ろを振り向いた。 「また会えたな」 佐藤。 入浴中に侵入したのか。愛梨はバスタオル一枚なので恐怖は倍増した。 「愛梨。高飛びする。もちろん協力してくれるね?」 愛梨は佐藤の目を真っすぐに見ると、厳しい口調で言った。 「自首してください」 「何?」不気味な笑み。 「あなたは殺人やレイプはしていない。取り返しはつくわ。だから自首して…あう!」 ボディブローが入った。愛梨はおなかを押さえながら床に倒れた。 佐藤が上から凄む。 「愛梨。くだらないこと言うと痛い目に遭うぞ」 愛梨が何も答えないので、佐藤は彼女の腕を掴み、もう一度ボディブローの構え。 「待って」 慌てる愛梨に、佐藤は言った。 「今俺は追い詰められてる。手荒な真似されたくないなら、協力するんだ」 愛梨は身じろぎした。 佐藤は、バスタオル一枚で横たわるセクシーな愛梨を見て、欲望が刺激された。 「日本の警察は優秀と聞く。万が一高飛びが失敗したら、何年入るかわからない」 愛梨は警戒しながら聞いていた。 「だから、おまえの裸を目に焼き付けておくよ」 冗談ではない。愛梨は抵抗した。しかし力では勝てない。佐藤は両手でバスタオルを取ろうとする。 「ちょっと、やめて、やめてください!」 タオルを取られたら生まれたままの姿だ。 愛梨はバスタオルを掴んだまま佐藤を睨んだ。 「タオル取ったら絶対協力しない」 佐藤はすかさず聞いた。 「じゃあ、取らなかった協力するのか?」 「あ、いや…」 「どうなんだ?」 佐藤が迫る。愛梨は唇を噛むと、小さく頷いた。 「よし、じゃあ服を着ろ。すぐに出発だ」 愛梨は起き上がった。バスタオルを巻いていても、この格好は恥ずかしい。 「佐藤さん。服着るまで向こう向いててくれます?」 「後ろから殴るのか?」佐藤は笑顔で聞いた。 「まさか」 「面白い」 佐藤は愛梨に背中を向けた。愛梨はバスタオルを脱ぐと、急いで下着をつけようとしたが、全裸のまま抱きしめてられてしまった。 「話が違う!」 「待て愛梨。大丈夫だ。裸は見えてない」 愛梨は生きた心地がしない。 「いいか愛梨。おまえは人質ではなく、人質のふりをするんだ。いいな?」 「ふり?」 「人質のふりをして、俺を無事海外に高飛びさせる」 納得のしようがない話だが、断れば裸にされてしまう。 「愛梨。裏切ったら、一糸纏わぬ姿で、交差点に置き去りにするぞ」 「やめて、そういうことは!」愛梨は怒った。 佐藤は笑うと、玄関へ歩いた。その隙に愛梨は急いで服を着た。 本当に邪悪な男なら、女がどんなに嫌がろうが、わめこうが、バスタオルを取っただろう。 愛梨はそんなことを考えていた。佐藤は根っからの悪人ではない。 この思いが、恐怖を半減させた。 佐藤は愛梨を連れて外へ出た。尾行がいないかを確かめると、愛梨を車の助手席に乗せた。 前へ |次へ |
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