《MUMEI》
『惇が一番筋がいい』
…親父
ただ、褒められた事が素直に嬉しくて
ただ、それだけで…
『ぼく大きくなったらお父さんのあと継いで板前になる!』
『頼もしいな』
『何が筋がいーだよ、あと継ぐだよ、惇は三男なんだ、兄ちゃんや俺をさしおいてあとなんか継げる訳ねーだろ』
『…後継ぐのは俺だ
だいっ嫌いだ、お前なんか生まれてこなきゃよかったのに』
『惇、ダシは絶対に沸騰させちゃいけない、ダシは料理人の基本だ
まずいダシは口にするな、本物だけを口にしろ、
煙草は絶対に吸うな』
『どうせ血は繋がってないんだから仁でいいよ、……
ていうか、
兄弟じゃいられない
好きだ、
ずっと好きだった
訳のわかんねー女になんか渡せっかよ』
嘘だ…
本当は仁は…
『仁までたぶらかせて、店も仁も全部欲しいだなんて、やっぱお前生きる価値無し』
もう嫌だッ!!!
『僕は…、継げません…』
ここから逃げたい!
ここにあるものは何もいらない!
だから
だから
もう苦しめないで!
『惇しか居ないのに何を言ってるんだ、
仁は喫煙している。拓海は筋がない』
もう…
『僕も……
煙草吸ってます』
いらない…
『上京?タレント?……何血迷ってんだ顔がいいだけじゃ無理に決まってるだろ、お前にはなんの取り柄もないじゃないか』
…タレントなんかどうだってよかったんだ…
この家から出れば
兄貴と仁に関わらないで済む方法は…
未成年の俺にはこれしか考えつかなかった…
ダメならば…
東京の雑踏の中に
ひっそりと紛れてやる…
ただ、それだけの事で…
『うちの店は、俺の代で潰す
ダシの味がわからん人間に板前はつとまらん
二度と俺が教えた料理は造るな
馬鹿にするな』
……この仕事
やってみたら…
やっぱり俺には合わない世界だったけど
辛い事の方が多かったけど
でも、楽しくて…
やり甲斐があって…
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫