《MUMEI》

 
 私の名前は、紺野真希(こんのまき)。

 私には、好きな人がいます!
 なんて……もちろん、彼氏のことだけど。

「まきー!」
 私が家を出て、学校へ向かうために道を歩いていると、後ろのほうから私のことを呼ぶ誰かの声がした。

 私はなんとなくそれが誰なのかわかってはいるが、“わからない”でいるのが楽しいのだ。
 ゆっくりと振り返ると、遠くから走ってくるたくましい男性の姿が確認できる。

 あれは……!

 自然と顔がほころぶのがわかった。

「たかしさーん」
 私はその男性……いや、彼に向かって大きく手を振る。

 彼は私が手を振っているのに気づくと、一回立ち止まって私と同じように大きく手を振り、また勢いよく走り出した。

 彼との距離が段々と縮まるにつれて、私は胸の鼓動が速まるのを感じていた。

 一言で済ませれば、かっこいい王子様。私にとって彼は、王子様以外の何者でもない。

 それでもたまに不安になるのは、彼を愛しすぎているからだ、そう自分に言い聞かせる。

「まきー」
 彼との距離がマイナスになるほど、彼は勢いよく私に飛びついてきた。
「たかしさん、苦しいよ」
 私は笑いながら、彼を抱きしめる。
 



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