《MUMEI》 ヴァンは訓練用の庭に出ると、庭への入り口付近にあった赤いボタンを押した。すると―― ガシャ バン! ガシャガシャババン! ガシャガシャガシャガシャガシャババババンバン! 的が現れ、ヴァンはそれを現れたそばから手奴で撃ち抜いていった。 一つ目は正面、二つ目三つ目は左右前方、四つ目は庭の隅、五つ目は一つ目の的の奥の木の陰、六つ目は五つ目の木を挟んで反対側、七つ目は左真横、八つ目は右真横。 彼は常人では考えられない速度の早撃ちで的を仕留めていったのだ。しかし、彼は顔を顰めている。気に入らない結果だったようだ。 「やはり疲れているのか……?」 彼の気にかかっていることは二つ。一つは最初の的が現れてから手奴で撃ち抜くまで一瞬の間があったこと。もう一つは連続していた音が七つ目と八つ目の間で繋がらなかったこと。 一般的な感覚からすればとんでもない速度なのだが、彼にとっては遅いのだ。 本調子ではないというのは傭兵にとっては命取りだ。特にヴァンのような優秀な傭兵であれば無理難題をふっかけられることもままあるので、何時でも万全にしておかなければならない。 人の世とは理不尽にできている。得てしてこのような都合の悪い時にこそ厄介事は起きるものだ。 前へ |次へ |
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