《MUMEI》
愛は会社を救う(30)
海に近い街らしく、割烹居酒屋の魚介も新鮮で旨かった。
しかし、青地知子の箸はあまり進んでいない。
二人が差し向かいで座れるだけの、狭い個室の座敷席。場馴れしていないのか、彼女の表情はずっと硬いままだった。
「お気に召さなかったですか、こういう店」
「い、いえ、そんな。そういう訳では」
上から物を言うようなオフィスでの態度とは異なり、拍子抜けするほどしおらしい。
そっと徳利を差し向けると、知子は両手で杯を取り、私の酌を受けた。
化粧も地味で決して美形ではないが、僅かに白い喉を見せてそれを飲み干す様には、齢相応の色気が感じられる。
知子は空の杯をテーブルに置き、思い詰めたような沈黙に続いて、こう切り出した。
「赤居さん、6か月の契約でしたよね?」

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