《MUMEI》
朽ち行く世界
 「何を、しにきたのです?殺鷹」
宿り木の頂
現れた殺鷹の姿に、先に来ていたらしい白鷺が怪訝な顔をして向けた
何故来たのか、何をしに来たのか
ソレばかりを表情で問うてくる
「それは私の方が聞きたいね、白鷺。キミこそ此処で何をしている?」
努めて穏やかに返せば、説明する必要などないとの返答が返り
予想通りのソレに、殺鷹は深々しい溜息だ
「随分と、変わってしまったね。世界も、君も」
頂から眼下に広がる景色を眺めながら殺鷹は呟く
だが白鷺は殺鷹のされに首を横に振った
「……私は何も変わってなどいない。変わってしまったのは貴方です、殺鷹」
「変わった、かな。私は」
「ええ、とても。本来、私達はあの方に造られた花の守り人。あの方の意思に背く事などあってはならないのに。貴方は……」
「私は、背いた覚えなどないよ」
「いいえ、貴方は背いている。この世には白花の身が咲いていればいいという、あの方の意思を」
言い終わると同時、白鷺は手近にあった枝を手折ると、その先を殺鷹へと向ける
刺し抜かれると、即座に解った
だが殺鷹は、それをかわす事を出来ながらもしなかった
肩へとそれが食い込み、そこから大量の血が流れおちる
「……これは、何?私の手に赤い、モノが……」
その血を掌に受け止めた白鷺
赤く染まる手の平を眺め、怯えたように顔を青白くさせていく
「……肉を裂いたんだ。血が出るのは当然だろう」
殺鷹は呆れた様に溜息混じりに呟いて
だが白鷺は
「……赤、血の朱。穢れていく、私が……」
手の平を眺めたままうわ言のように呟くと、宿り木の葉を何枚も千切って取ると懸命に手を拭っていた
一心不乱に唯手ばかりを拭う白鷺
まるで狂人の様なその様に、止める様白鷺の手首を攫んだ
次の瞬間
突然、彼女の背の皮が音を立てて裂け
以前の梟と同様に、白花を大量にそこへと咲かせ始めてしまう
それを眺め、白鷺の顔が満足気なソレへと突然に変わった
「そう、それでいいの。白以外の彩りなんて必要ない。この世界は全て白花に染まるんだから」
益々狂ったように笑い出した白鷺を
どうしたものかと考え、だが彼女に手を挙げる事など出来ず
唯、眺め見るしか出来ずに居た
「相変わらず、うるせぇ女だな」
その殺鷹の背後
吐き捨てる様な声に振りかえってみれば、そこに梟が居て
殺鷹を軽々飛んで越え、梟は白鷺の真横へ
近く居る梟の存在に未だ気付かず笑い続ける白鷺
梟は手近な枝を手折ると、それを白鷺へと突いて刺していた
「な、何?」
枝に身体を貫かれ
まるで蝶の標本の様に気の幹へと身体を縫い付けられてしまう
「ふ、くろう?アナタ、何を……?」
突然の事に眼を見開くばかりの白鷺
大量の血が身体から流れ出て、段々と白濁に染まっていく視界の中で
白鷺は梟の傍らにあの少年の姿を見た
「……す、ずめ?これ、は一体どういう、事なの?」
震える白鷺の声
涙すら眼もとににじませる白鷺に、少年・雀は満面の笑みを浮かべながら
「どういう事って、何が?」
素知らぬ振りでわざわざ聞いて返した
「あな、たは私を……」
「うん。もう要らないから殺そうと思って」
耳に残酷でしかない言葉
段々と霞んでいく意識の中、その声はやたら響いて聞こえる
「……何、故?私は白花の、白の、鳥なのに」
「違うよ。キミは守り人。白の鳥は梟だ」
嫌な嘲りを浮かべ
ソレをまるで合図に、白鷺を貫いている者が全て引き抜かれる
崩れ落ちる白鷺
その身体を梟が受け止め、そして
「さよならだ。俺の、守り人」
短く、感情の籠らない別れの言葉
白鷺の身体が、その場から放って投げられた
「白鷺!」
何もなく、唯落ちていくしかないソコヘ放りだされた白鷺
消え行く彼女の姿に、殺鷹も宿り木を降り
落ちていく彼女の身体を、その手首を何とか掴む事が出来た
しかし落下は止められず
殺鷹は咄嗟に白鷺を抱え込むと、自身の身体のみを地面へと叩きつけた
強すぎる衝撃に瞬間呼吸が止まり
背骨が数本、折れる音がした
動く事が困難になり、降ってくる白花に全てが染められていく様を唯眺めるしか出来ない
「……殺、鷹」
不意に、消え入りそうな白鷺の声が聞こえ

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