《MUMEI》
愛は会社を救う(31)
「ええ、6か月です」
私は徳利を置き、知子の目を見つめて傾聴の態度を示した。
「契約が切れた後は、どうなさるの」
まだ勤務して2日。想定外の質問に、些か面食らう。
「そうですね。たぶん派遣元に次の仕事を紹介してもらって、新しい職場へ移るでしょうね」
「では」
知子は、身を乗り出すようにして私の目を見据えた。
「この街とは別の場所へ?」
この質問を聴いて、私は一旦視線を切った。知子の性急さを遣り過ごし、会話する上での間合いを取り戻すべく、自分の杯に酒を注ぐ。
「その可能性が高いです。地方にはあまり求人が無いですから」
「そう…」
どことなくホッとしたような表情が、何を意味するのかわからない。しかし知子はそう言ったきり、再び黙り込んでしまった。

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