《MUMEI》

「──お元気になられたのなら、何よりでございます」

「ぇ──」

何だか、トクン、と心臓が鳴ったような気がします。

気のせい‥でしょうか?

それとも──‥。

「お嬢様‥?」

「ぅぁっ、ぃ‥ぃぇ‥」

慌てて、チョコレートムースを口に入れました。

器が空になった頃、あたしはすっかり時間を忘れていた事に気が付いて──腕時計を見た。

「‥ぁ」

もうこんな時間です──。

「ぁ、どうも‥」

椅子を引いてくれたんですね──。

「では、お見送り致します」

シグレさんに手を取られて玄関に着くと、ゆっくりと扉が開かれました。

「──お気を付けて行ってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしております」

その言葉に頷いて、あたしは雪の上を歩き出しました。

「──そうだ」

せっかくだから友達にも教えてあげよう、と思って、バッグからケータイを取り出しました。

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