《MUMEI》

パッケージは、ごくシンプルな、ものだった。
真っ白な箱に、シルバーでブランドのロゴマークらしきものがプリントされていて、正面には、メタリックブルーの筆記体で、アルファベットが書かれている。

《A mi aire》

…読めない。
英語ではないようだ。しばらく睨めっこしていたが、早々と解読するのを諦め、私は顔を上げ、歩さんに助けを求める。

「何て読むの?」

歩さんは笑った。

「《アミアイレ》っていうの。スペイン語よ」

「アミアイレ…」

能も無く、歩さんの言葉を、ただ繰り返す。スペイン語なんて知るわけない。英語だって満足に話せないのだから。

私は興味なさそうに「ふぅん」と唸ると、歩さんは箱を手に取り、シルバーのスパチュラを使い、優雅な仕種で蓋を開けた。それから、グローブをつけて、箱からボトルを取り出した。

キレイな、グリーン混じりのブルー。
淡い色調で、見ただけで爽やかな気持ちになってくる。
角の丸い四角のボトルの、その正面にも、白い字で《アミアイレ》と、パッケージと全く同じ書体で書かれていた。

ぼんやりそのボトルを眺めていると、歩さんは優しく微笑み、ボトルがよく見えるように掲げた。

「この形、何に見える?」

ボトルを指差しながら、歩さんは尋ねてきた。私は突然のことに少し戸惑いつつ、「うーん…」と悩んでみせた。

角がとれた、四角い瓶。

何だろう?

答えられずにいると、歩さんは悪戯っぽく笑ってあっさり言った。

「窓よ」

「マド?」

眉をひそめる私に、歩さんは大きく頷いてみせた。

「飛行機の窓がモチーフなの」

そこまで言って貰って、ようやく納得した。そう言われて、改めてみれば、そんな気もする。
歩さんは、瓶を眺めながら、続けた。

「女性が、社会に力強く進出していくイメージで作られた香りなの。だから窓。違う世界に飛び出そうって、ね。かっこいいコンセプトでしょ?」

得意げに、そう説明した。私はとりあえず頷く。歩さんは、おもむろにシルバーの瓶のキャップを外した。そしてスプレー口を私の方へ向けて、構える。

「スプレーのチェックするから、腕出してね〜」

「え?」

スプレーのチェック?

意味が分からないという顔をすると、彼女はかわいらしく首を傾げた。

「稀になんだけど、不良品があってね、ウチでは必ず、渡す前に商品チェックしてるの。スプレーの確認はどうしても、一吹き出しちゃうから、腕に試させて貰ってるのよ」

歩さんが言ってることは分かるが、私はこれから学校へ行ってレッスンをするのだ。

それなのに、香水なんて…。

躊躇う私を見兼ねたように、歩さんは言った。

「大丈夫よ。高校生でも使えるような香りだから」

「安心して腕出して」と催促した。

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