《MUMEI》

 人生は山あり 谷あり… ヒトはよくそんな事を言う  
そして自分の運命は 自分で切り開け…と、人生の教師たちは繰り返し言うだろう 

しかしそんな自分も自らの意志としてソコから生まれ出たわけではない  
重なり合う些細な遺伝子が…その種の法則に従って新たな命の息ぶきの芽を育み成長する…ただその命を 引き継いだだけだ…。

花は花として育ち 鳥は鳥として生まれ ヒトは人として 生きてゆく  

そこにはなんら自分の意志など  存在はしない … 
幹 健児も そんな 幸運に恵まれて生きてきた一人だった 。 



「よぅ  腹へったなぁ〜 コレでも喰えよ……腹が減りゃあ ナンでもおいしいもんだォ …… 」 
そう言いながらこのナニモノ…か?さえわからない通称ビルは…舟底に巻き付けてあった縄の切れ端をむしって…宏介に向けてホイっと放った 


「立派な…人生だ………」 
宏介は 縄のささくれた部分を揉み解しながら…ちぎりイカのように口で噛むと…いつのまにかこんなモノでもすんなり口に入ってしまう…自分が哀れに思えた…。


「んだなあ……地位も名誉もエカネもあってよ…その上…美人のかみさんに 立派な子供二人とくらあ〜  (笑) はははぁ〜〜 」 
通称ビルは 縄が歯に挟まったのか しきりに伸びた爪で掻き出しながら……また あの下品な(笑)い声をあげた 


「子供も………」 
宏介は思わずつぶやいた 

「その幹さんたちの子供がよぅ……またコレが賢かったんだなぁ〜 長男はオリンピックに行くような大それた夢など見なかったよ……何しろオヤジが やり投げの金メダリストで国民の英雄とくりゃあ ……本人はスポーツじゃ…とてもオヤジにゃ勝てねぇ……と、思ったんじゃないかい ……
まぁそれでもあの幹さんの血筋だろォ…子供のときからテニスやゴルフとかじゃかなりの 成績でよ 今じゃ 五本の指に入るプロゴルファーさな…… それによ〜下の娘の子は テニスで 優勝! やめたら芸能界入りで人気お嬢様タレントだぁなコレがまた ……で、今じゃ青年実業家ってのかい……かなりの資産家の御曹司と結婚しておめでた一人の母親せれびだぁ〜な ォ  はははぁ(笑)〜〜  」 

宏介は……もう…あの(笑)いに慣れてしまっていた 

「順風満帆な人生だなぁ…………うらやましい……」 
宏介は そう思いながら…目の前の…石の上に…肩肘をついたまま足を組み…俯いてぴくりとも動かない…………そのヒトをじっと見つめた  。 


「でもよ ……ここからなんだなォ ………幹さんの不幸の始まりはよ………」 
通称ビルは 狭い小舟の中でむき出しの足をくの字に曲げ…すでに横向きになっていた  。 

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫