《MUMEI》
▽
点滴を管理する電子音
聞き慣れた主治医の声
憔悴しきった隆志
俺に何か話かけた後病室を出て行く平山さん。
カーテンの隙間から僅かに陽が入っている……。
主治医と看護師が出て行く時、隆志は立ち上がり、折目正しく頭を下げた。
▽
「さっきまで裕斗も居たんだ、……
寝ないでずっと…
惇に付き添ってた……」
「…………」
「………」
「…った…ぃ…」
「え?惇……」
「ゆ、ゆーとに会いたい、ゆうとおー…」
無性に会いたくて名前を呼べば涙が次々とこぼれ落ちる。
壊れたラジカセみたいに裕斗の名前を繰り返していたら
……ガラ…
「裕斗…」
と、隆志が静かに言った。
「やっぱマネに無理言って打ち合わせ延ばしてもらった、…惇が意識戻るまで…」
「戻ったよ」
「え?惇!!」
タタタと駆け寄る靴音。
「惇!……は〜……」
一瞬だけ目線があい、しかし裕斗は床に崩れ落ちた。
「……俺電話してくるから」
隆志はそう言うと俺に笑顔で、しかし寂しげに……
俺の頭に少し触れて、
そして病室を出て行った。
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