《MUMEI》

「中学の時はどうだったの?」

「転校したてだったし、すぐ卒業だったし…柊と、あと数人の名字しか覚えなかった」


あの頃は、地味なのが普通だと思っていたから、それでいいと思っていた。


(ちゃんと、友達なんて作る気無かったし)


名前で呼び合ったり


夏休みも一緒に遊ぶ存在が出来るとは思わなかった。


「じゃあ、その前は?」

「……え?」


(ヤバい)


祐の何気ない言葉に、声が、震えたのがわかった。


「だから、こっちに来る前。
その時も、こんな感じ?」


(こんな感じも何も)


俺は、学校に行っていなかった。


ここに来る前


俺の世界はあまりに小さく


周りには、俺以外に三人の人間しか存在していなかった。


「…言いたくないなら、いいけど」

「どうせ、似たようなもんだろ?」


祐に続いて言った拓磨の言葉には嫌味は無く、この話題はここで終わりとばかりに、俺から顔をそらした。


「過去は過去!今は今よ!」


志貴が肩を叩いた。


(気をつかってくれたんだよな)


「ごめん、ありがと…」


俺は小さく呟いた。


同時に、胸が痛むのを感じた。

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