《MUMEI》

階段を一回りすると自然な光りが差してきた 
…どうやら外へそのまま通じているらしく冷たい刺すような風が二人を容赦なく吹き付けてきた 。


白一面に盛られた辺りを慎重に見回しながら……栄一とユカがゆっくり外へ出てくる 
外にはまだ人の気配はなかった

出口は2メートル以上のフェンスで囲まれている 

「…あ〜 どうする… 」 

ユカが 心配そうに栄一に声をかける 

「…地下になってたんだな…… よし ユカちゃん 上に登れ! …フェンスに手を掛けてみろ!  」 
栄一が フェンスにもたれ掛かって今にも泣き出しそうなユカを…促した 

「もっとォ 力を入れて…思い切り腕に力を入れてォ 」  
栄一はユカの身体を持ち上げながら下から必死になって押し上げている 

「もっとォ う〜尻が重たいなぁ 早く 早く〜もうちょっとだ ォ  」  栄一の顔が歪む… 
「やってるわよォ  」 

ユカのお腹がやっとフェンスの上部に乗った…  

「よし ユカちゃん 飛び下りろ 早く! 」 

「えぇ〜 ォ 怖いなぁ〜  」 
 「早く 大丈夫だよ 飛び下りろ!ユカちゃん! 」 
ユカは目を瞑ってそのままひっくり返るように 白い泡の中へ飛び落ちた 



降り積もった白銀の森の中を 沈みながら…転がりながら…手を繋ぎあい……まるで戯れ合う白い子熊のように必死で逃げてゆく栄一とユカ………
突然 パァン…… パァン… と 二つの銃声が後ろから聞こえてきた 

二人の手前にそびえ立つ小枝が 弾け飛び 粉雪が舞い上がった 


「うわぁ〜 な! なに〜 」  ユカが 身を屈した 

「ちくしょう! マジかよォ奴ら… 本気で撃ってきゃがった!  逃げろ!!  」 

なおも 何発かの銃声の音が響き  アチラこちらと……吹雪が舞っている 


次第に森が薄くなり……小さな登り坂になってくるとフェンスらしき金網が見えてきた…  
何発か放たれた銃声の音も
聞こえてこなくなった 


フェンスの向こう側に道が見えている 

「やった ! ユカちゃん出口だ ! 」 

二人の苦闘した姿は……頭から溶けかけた雪だるまのように…なっていた  


幸い金網のフェンスは古く腐りかけた鉄線を杭が支えているだけだった 。

栄一が一番弱そうな杭のあたりを倒れた木の枝で思い切り叩くと……金網はもろくも崩れさっていき…
二人に…やっと安堵の笑顔が戻ってきた 。


歩いてゆくと雪道はすでに通行止めになっていた… 

がっくりと肩を下ろす二人に突然…向こうからジャリ…ジャリ…と、凍った雪を蹴飛ばして駆け出してくる足音と…叫ぶような声が聞こえてきた…… 


「ヘイ!カモン… ! へ〜イ! こっちだ ! 」 

一人のサングラスをかけた大きな男が手で呼び寄せながら 近づいてくる …… 

栄一とユカは 疲れと恐怖とで……すっかり…観念してしまった… 。


「ヘイ !大丈夫か? もう心配ない ……こっちだ!  」 

二人は 諦めたような表情で…そのいかにも軍人らしき様な防寒服を着込んだ…そのサングラスの男に……言われるまま 着いていくと…
カーブした向こう側の通行止めの柵の手前に…男の車が見えてきた 。 

「ヘイ… アレを見てみろ… 」 
歩く途中なにげなくその男が差した谷間を見て…栄一とユカは 驚いてしまった! 

「アレは………」


なんと そこには白い森の中が すっぽりと抜き取られたような…
巨大な穴が開いていた…。  。

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