《MUMEI》

 突然 舟底からピシャッ…と、音がしたかと思うと…小舟が大きく揺れた 

「なに!?  」 
宏介がびっくりして身構えると… 

「ちぃっォ! また出てきゃあがったか〜 ォ  」 
それまで肘を付いて耳糞をほじっていた…通称ビルはかじっていた縄を手に巻き付けると揺れる舟底を覗き込みながら…
ビシャッ ビシャッと 小川の上を叩きだした ! 

「 河童だよォ もうそろそろ出てくると思ったぜ… ちぃっォ  ずっと後を付いてきゃあがったんだなォ   」 

ピシャッ! ピシャッ! 
「ケ〜〜 ォ  」 

異様な叫び声がしたかと思ったら… 
水の中から突然 薄紅色の皿を頭に載せた緑色をした小さな河童が…… 一瞬(笑)いながら浮かび上がると すぐに 潜って消えてしまった… 

「 …皿に当たったんじゃないか? 可哀想に… 」 
宏介は縄を振り回しているビルに言った 


「? ちぃっォこれだから…素人は困るんだよなォ …奴はよ……叩かれて喜びを感じるんだび… 
まぁ〜叩かれるのが 生き甲斐ってトコロかな〜  はははぁ〜(笑)…おっとォ 」

通称ビルは(笑)いながら…縄を持っていたので バランスを失い また飛び込みそうになったォ 



「ところでよ……その 幹大将殿だけどよ……  」 
通称ビルは気を取り直したように… また話しを始めた… 

「 辛いよな…一度頂点を極めた人間はよ…… 
二人の子供も立派に独立して…時間に余裕のできた女房はよ……まぁ女房と言ったって元は女優だぁな 持って生まれたその美貌は衰えるどころかあの熟女ブームとやらで…またまたテレビやら雑誌やらから引っ張りダコだわさ……  」 

んで… 逆に 及びの無くなった幹さんはよ… 一人ぼっちで 寂しくなったのかなぁ 
ソレまでは 断り続けていた コーチをよ 後輩の強い進めで引き受けちまったんだよな  ソレが 幹さんの 運のつきサな ……    」  

通称ビルはそう言うと…への字に絡み合う伸びた髭を撫でながら…また 横向きに寝そべって…大きな欠伸を ひとつした 。 

「べつに……コーチをするんなら 張り合いがでていいんじゃないのかい? 」 
宏介は 目の前の考えるヒトを見つめながら…ビルに言った…  。 


「そりゃ〜 相手は喜ぶさな  なんてたってアイドル宦cじゃないかォ ははぁ(笑) なんてたって英雄 幹先生さな …… だがよ…… 
そのコーチも始めのうちはよかったけどな…… 選手の記録も上がるウチはよ …
しかし成績がだんだん下がってきたんだな これが…
それなら…と、焦った幹先生…… 練習もきつくなってよォ  選手がついてこれなくなったんだよな…… 
で…ある日事故が起きたんだわさ…… 
 
一人の選手が無理しすぎて…… パンクしちまったんだよ    」  


「パンク……?  」 

宏介は聞き返した 。 


「その選手の身体はもう 限界だったのに無理さしちまったもんだから……とうとう使いもんに ならなくなったってわけさな… 
で…結局……悩んだその競技選手はよ…… 自殺しちまったんだよ ……それも部室で 首吊ってよ……」 

宏介はビルの話しを聞くうちに……だんだん合点がいく自分を 感じていた 。

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