《MUMEI》

学校に、行ってない。
もしかして、流行りの不登校とかだろうか。でもこのキャラクターなら、間違いなく人気者になれる筈だし。何だか腑に落ちない。
…それとも。

「行ってないって、その…病気とかで?」

怖ず怖ずと尋ねた。先ほど、彼女が苦しげにうずくまっていた姿を思い浮かべて。
何か、重い病気を患っているのかも。

しかし、予想に反して、彼女は一瞬キョトンとし、それから大笑いした。

「違うよ〜!私、頭悪くて…勉強、あまり得意じゃなかったから」

その答えに、私はたまげた。今時、どんなに成績が悪くても、高校くらい通っているのに。
彼女は笑顔で、さらに付け加える。

「自慢じゃないけど、病気なんてなったことないよ。風邪もひかないし、元気そのものだもん」

私は眉をひそめた。

「でも、さっき…」

あんなに苦しそうにしていたのに。
言いかけた私に、小百合さんは「ああ!」と思い出したように声をあげた。

「あれは、病気じゃないの」

それから俯いて、お腹に両手を優しく添えた。

「病気じゃ、ない」

もう一度、繰り返した。まるで自分に言い聞かせるみたいに。

余計に分からなくなり、私が首を傾げていると、彼女は突然顔を上げて、私を見た。

「ナナちゃん、いい香りがするね!」

急に話が変わったので、私は戸惑った。

「いい香り?」

自分の腕をクンクンと嗅ぎながら尋ねると、小百合さんは大きく頷く。

「公園で助けて貰ったときから思ってたんだけど。ふわ〜って、すっごく優しい匂いがするの…シャンプーかな?」

そう言われて、ひとつ思い付く。

「もしかしたら、香水かも」

デパートで歩さんにつけてもらった《アミアイレ》のことかもしれない。今も少し、その残り香がするから。
私の返事に小百合さんは「香水!?」と、驚いた。

「ナナちゃん、オトナだね。私、香水なんてつけたことない」

私だって香水を纏ったのは、今日が初めてだ。
でも、それは言わなかった。

小百合さんが私に向ける、羨望の眼差しがとても心地よく、少し優越感に似た気持ちが込み上げてきたから。

「デパートにたくさんあったよ。小百合さんも、使ってみたら?」

得意になって、そう言ってみたが、小百合さんは急に寂しそうな顔をして、力無く「うん、そうだね」とだけ答えた。
彼女の歯切れの悪い反応が気になったが、私は特にフォローしなかった。

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