《MUMEI》
愛は会社を救う(33)
それを聴いた知子は、やや自嘲するように口元を歪めた。
「本社時代も今も、私には仕事しかないから」
こちらを見て、フッと寂しそうな微笑を浮かべる。
「私、優等生なの。大学まではひたすら勉強、就職してからはひたすら仕事。ずっとそれだけの、ただつまらない人生」
「そんなことはありません。立派なことだと思いますよ」
珍しいことに、同情しかけている自分がいた。
「赤居さんは…」
少しの躊躇の後、知子が私に問い掛ける。
「もしかして、望んで派遣をされてるの?」
「なぜ、そう思われるのですか」
逆に私が問い返すと、知子は少し間を置いてから、こう答えた。
「藍沢と二人で資料室に居た時の姿。まるで、プロのジョブトレーナーと新入社員みたいだった。それも、ちょっとその辺にいないレベルの」
そう言う知子の洞察から逃れるように、私は静かに首を横に振り、苦笑して見せる。
「いくら不況でも、そういう人材がこんな地方の会社で資料室の整理をしているはずないもの。望んでやっている以外、考えられないわ」

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