《MUMEI》

 「こら、ファファ!暴れんな!」
泡が、浴室中に飛んで散った
普段大人しいファファからは想像もつかない程の暴れっぷりで、水の出るシャワーから逃げようともがく
その所為で先に体を洗おうと泡立てておいたボディーソープのソレが浴室中に散りまくっているという訳だ
「お水恐いです〜!嫌です〜!」
必死にそればかりを訴えてくるファファに
だが、こればかりは聞いてやる事は流石の田畑も出来なかった
「そんな事言ってもだな、ファファ。先に身体流してからじゃねぇと洗えねぇだろ」
「でも、ファファお水嫌いなんです〜!」
言って聞かすも返ってくる答えは同じ
これでは一向に話が進まないと、田畑はため息をつきながら
「風呂からあがったら、いいもん作ってやるから」
だから大人しくしてろ、と頭の上からシャワーを問答無用でかけてやる
突然すぎるソレに硬直してしまったファファだったが、田畑の(いいもの)発言に、耳をピクリと動かしていた
「いいもの、ですか?」
小首を傾げてくるファファへ頷いて返しながら
「そ、いいもの。だから、おとなしく洗わせろ、な?」
行って聞かせてやれば漸く大人しくなってくれ、田畑はファファの背を優しく洗う事を始める
小さくて柔らかな肌の感触に、赤ん坊というものはきっとこんな感じの手触りなのだろうと何となく思ってしまい
そんな事を考えてしまった自身に、つい苦笑で肩を揺らした
「正博君?どうかしたですか?」
田畑が笑ったのが聞こえたらしく、だが何に笑ったのかが解らないファファが小首を傾げて向ける
何でもない、と田畑は声に笑みを含ませたまま返すと、つぎにシャンプーを手に取っていた
「次、頭な。目閉じて。耳、濡れるの嫌なら手で押さえてろな」
「はい!」
言われた通りにファファは眼を閉じると、手で耳を押さえた
それを確認すると、シャンプーを髪の毛全体になじませ洗う事を始める
細く、柔らかい茶色の髪
ソレは指に絡む事はなく流れる様に解けていって
ファファの頬を弾いた
「正博君!これ、これ何ですか!?」
その弾みでふわりシャボン玉が一つ出来、
ファファの興味は当然そのシャボン玉へ
触れようと指を伸ばせば、だがシャボン玉は弾けて消えてしまう
「消えちゃったです……」
「泡ってのはそんなもんなんだよ。触る事は出来るけど、触ったらすぐに消える」
触れる事が出来ずに寂し気な顔をするファファに田畑は微笑むと、シャンプーを流してやりながら、ふとある事を思いついた
ファファの名前を呼んでやり、彼女へと人差し指を一本立てて見せながら
「なら、後でもう一つご褒美やるよ」
と、田畑は満面の笑みだ
一つ増えたご褒美に、何なのかと小首を傾げるファファに
だが田畑はそれ以上語る事はせず、自身の身体と頭を手早く洗うと早々に浴室を後に
脱衣場にて着替えを済ますと、ファファを手招いて
普段は客人用としてでしか使わないバスタオルでその身体を包み込んでやる
「俺のシャツで悪いけど、何もないよりはマシだろ」
水気をすっかり拭き撮った後、シャツを羽織らせてやれば
サイズが大きすぎるソレに、ファファは何となく照れくさそうに、ぶかぶかです
と笑う
その様を真正面から見た田畑も、その通りだとすぐ様苦笑を浮かべる
「俺のじゃ、やっぱデカいな」
頭を拭いてやりながら一言呟いて
だがファファは笑みはそのままに首を横へ振りながら
「温かいです。正博君、ありがとです」
耳を小刻みに動かし始める
ソレは本当に喜んでくれている証拠で
田畑は、苦笑を笑みへと変えていた
「なら、今からご褒美タイムだな。ちょっと待ってろ。すぐ作ってやるから」
台所へと田畑は踵を返し
冷蔵庫から牛乳とハチミツを取って出すと、それらを鍋へ
火にかけ、程良く温まったソレをカップへと注ぎ入れる
「熱いから気を付けて飲めよ」
カップをファファへと渡してやりながら注意を促してやれば
ファファはその言葉通り、注意しながら何度も息を吹き掛け
ホットミルクを適温に冷ましていた
やはり猫舌なのだろうと察した田畑は
カップを持つファファの手に自身のソレを重ね
冷ましてやろうと息を吹きかけた
「冷めた。どーぞ」
程よく冷めたソレを勧めてやれば

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