《MUMEI》

人の人生は山あり 谷あり 

山がなければ 谷もない 

この目の前の…谷底に突き落とされた素晴らしい肉体の持ち主も…
前者のように一度は人生のあらゆる頂点を制覇していた 

しかし今も尚… じっと一点を見つめながら…動かずに考えている事とはなんだろう 
置いていった家族の事か 
それとも 自身の過去の栄光か……
否…哀しみ突き落とされた…その後だろうか… 

宏介は それが 知りたかった…

「 彼は いったい…何を考えて…いるんだろ……」  

そう…言いながら…
目の前の…止まってしまった時間を…見つめた


「アンタ……んなコト聞いたって…ダレにもわかりゃしないさォ  ダイイチ…そのお方は聞いたって絶対にしゃべらしないしなォ 言葉を忘れてっからよ… 
もっとも…わからないから…考えているんじゃねぇのかい……
さぁ もぅそろそろ行くべよ… オッサン! 」 

通称ビルは気だるそうに立ち上がると…差し込んであった竿を 引き抜いた 


「行く?  何処へ  」 
宏介は 怪訝そうな表情で また聞いてしまったォ 

「ちぃ!…んなコト知るかよ。ォ…… 
とにかく オイラは行かなきゃ ならねぇんだ! この流れに 乗ってよ ……… 」 

宏介は一瞬…この小汚い男を 小川に 突き落としてやろうか ……と、思った 。


小舟は流れていった……静かに…深く… 

この得体の知れない 二人を乗せて… 
不思議な森を……
流れにまかせたまま…

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