《MUMEI》
招待状が届いたら
ワックスで軽く立たせた髪の毛を明るく染めて、両耳にはたくさんのピアス。黒いポロシャツにジーンズというラフな服装。鮮やかなイエローのメッセンジャーバッグ。
顔立ちは整っているが、物事にルーズそうで、どこか不真面目な印象を与える。

「あのぅ…」

怖ず怖ずと声をかけると、彼は人懐っこく笑って私を指差した。

「あんたが、ナナちゃん?」

ナナちゃん?

私は警戒しながら、「本名は、菜々子ですけど…」と、ぼそぼそ訂正した。しかし彼は気に留めず、持っていたバックから封筒を一枚、取り出した。

「郵便でーす!」

ふざけた口調で言いながら、それを私の目の前に差し出した。

郵便?

私は、封筒に目を向ける。
目の前の男の子には似つかわしくない、ピンクのファンシー系の封筒。

それを受け取らず、私は彼を見た。

「…何ですか?」

不信感いっぱいの私の質問に、彼はキョトンとして「何って、手紙」と、当然のように答えた。
馬鹿にしているのだろうか。私は少し、イラッとして「見ればわかります」と刺々しく言ってやった。
私の様子に彼は肩を竦めるジェスチャーをして、こう、付け足した。

「預かったんだよ」

預かった。
この手紙を、ということだろう。
私はもう一度、手紙に視線を落とす。よく見ると、表に小さく何かが書かれていた。可愛らしい文字の羅列。

それは、宛名だった。


《ナナちゃんへ》


私は顔を上げ、彼の顔を見上げた。彼は、どこか満足そうに微笑んでいた。
少し間を置いてから、尋ねる。

「誰から…?」

誰が、書いたのだろう。

いいえ、本当は分かっている。でも、確信が、ない。

だから、知りたい。
一体、誰が、書いたのか…。

私の問い掛けに、彼は表情を変えず、持っている封筒を裏返した。
封筒の裏面には、また、何か書いてある。小さい、文字。女の子特有の、丸みを帯びた、癖のある字。

私が、それを読んだのと、彼が答えたのは、ほぼ同時だった、と思う。


《小百合より》


「サユリちゃんから」


私は彼の手から、手紙を引ったくった。そしてマジマジと見つめる。『小百合』と書かれている。表に返すと、そこには『ナナちゃんへ』の文字。

間違いない。あの小百合さんからだ。

小さな封筒を、真剣に見つめている私に、彼は言った。

「この前のお礼を兼ねて、ホームパーティーにご招待だって」

この前のお礼。
公園で助けたことに違いない。家に送り届けた私に、本当に感謝していたから。

でも。

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