《MUMEI》
四つの銃口
 入った先は服飾店の休憩所らしき部屋だった。
もちろん、営業はしていない。
 真っ暗な店内を出口に向かって歩く。
正面の開かない自動ドアから、二人は姿勢を低くして外の様子を窺った。

 意外にも、外に人の気配はない。
しかし、すぐ近くで何かが燃えているのか、黒い煙り見えた。
「どうする?こっちから行く?」
「んー、いや。非常口から出よう。裏側にあるだろ」
今は静かでも、いざ外に出たらどうなるかわからない。
 二人は店内の誘導灯に従って、非常口へと向かった。

 非常口からは建物の裏側に出られた。
 とにかくここから離れようと歩き出した時、後ろから「みーつけた」という男の声が聞こえてきた。
 ギクっとして振り返ると、金色の髪の毛を天に向かって立たせた若い男がヘラヘラと笑いながら立っていた。
明らかに、ガラが悪い。
 首からはジャラジャラとチェーンをぶら下げ、ずり落ちたズボンにはわざと見せているのか、銀色のリボルバー。
「走れ!」
ユウゴは叫んだ。
 弾かれたように走り出す二人を、男は追ってくる。
しかし、武器を構えようともせず、気持ち悪い笑いを浮かべたまま走っている。

なんだ?
何かおかしい

 ユウゴは違和感を感じながらも逃げ続ける。
男はユウゴたちと一定の距離を保ったまま追い続けて来る。
「ユウゴ。なんか、変だよ?」
 ユキナも何か違和感を感じたのか不安そうな声を上げた。
走り続けているうちに、二人はいつの間にか細い路地へ迷い込んでしまった。

……これは、もしかして

 ユウゴが何かに気付いた時、二人の進行方向に誰かが立ち塞がった。
「は〜い、ストップ!!」
 両手をバッと開いて現れたのは、後ろから追いかけてくる男によく似た姿の男。
違うのは金髪に対して銀髪であるということぐらいか。
「いよお、リュウタ」
金髪が言うと、銀髪が片手を挙げた。
「いよお、コウタ」
どうやら二人は双子らしかった。
 ユウゴは一瞬の隙をついてすばやくエアガンをユキナに手渡す。
「え?」
 よく分かっていないままユキナはそれを受け取る。
 その様子を見て、双子は「おい、動くな!」とお揃いのリボルバーを抜いた。
しかし、同時にユウゴも銃を構えた。
その動きにつられて、ユキナもぎこちなくエアガンを構える。
「あれ?こいつら銃持ってんよ、リュウタ」
「みたいだな。ひょっとして、お仲間かもな、コウタ」
それでも構わないと二人は笑った。
ユキナの持っているのがエアガンとは気付いていない。
「こっちは構うんだよ、なあ?」
ユキナは無言で頷く。
 この場は少しでもビビると負けだ。ここはユキナに頑張ってもらわなければ。
「ずいぶん、強気なんだね〜。この状況で」
「俺たちに勝てるとでも?」
「さあな。少なくとも、ここで死ぬ気は毛頭ないけど」
ユウゴはできるだけ、冷静に言った。
「ふーん、それは俺たちもそうだよなあ、リュウタ」
「ああ、コウタ」
 双子はいちいち名前を呼び合わなければ会話ができないのか。
まったくうざい奴らだ。
「ああ?なんだよ、その目は」
「……別に」
エアガンを含めた四つの銃口が、それぞれの顔を捉えていた。

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