《MUMEI》

「ぶはああ」

光の毒霧がテーブルに散らかされた。
ジュースの色が白い皿の上で映えている。


「汚い!」

俺のシャツにも少しかかった。


「自分で拭いてよ?」

光のお母様は素早く避難している。


「ごほっ……母さん、何処で知り合ったの……」

光はお母様の恋人に反応したようだ。


「つい最近、農業を勉強したいっていう友達の付き添いで行った先で知り合ったの。」


「……農家。」

気付いてしまった。


「母さん……気付いて。全然似てないけど名字同じだから。」


「知り合いだったの?」

……おかーさーん!


「弟の名前、小暮幹祐です……。」

幹祐……年上好きだったんだ……。


「……あら、柴野君じゃないの?」


「柴野て、俺の偽名だし……」

光は俺の実家では柴野ケンと名乗って潜伏していたのだ。


「世間って狭いな……」

しみじみと実感した。


「幹裕、兄弟どころかパパになってる。」


「じゃあ、俺はおぢさま?」

父親(仮)の兄だからな。


「……まだそこまで考えてない。」

光母、冷静だ。


「俺、母さんとバージンロード歩きたいな。」


「あ、俺も歩きたい。」

光と……
うん、俺もそろそろ思考が危ないかも。


「私は角かくしが良い……」

じゃあ歩けないな。


「母さん絶対ウェディングドレスの方が綺麗だよ。今いろんなのがあるんだからさ、黄色とかでもいいんじゃないかな!」

光……楽しそうだな。
確かに光母の白い肌に黄色はよく栄えるだろう。


「……いい年でそんな勇気は無いわよ。光が着ればいいでしょう。」

それは……是非見てみたいです。
光は光でしょうけれど。


「いじけないでよ、幹裕が相手なら全然俺は歓迎する。」


「……私も小暮さんになら」


「睦美さん……」

思わず光母の手を握ってしまう。



「むーちゃんただい…………兄貴!!」


……幹裕、間の悪い男。

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