《MUMEI》

私は顔を上げて、彼の端正な顔を見つめた。そして素朴な質問を投げかける。

「あなたは、どちら様ですか?」

この手紙は小百合さんからのものだということは、とりあえず納得したが、それを持ってきた、私の目の前にいる、このひとは、一体何者なのだろう。

問い掛けに彼は、「え!?」と意外そうな声を上げる。

「マジ?俺のこと、知らない?」

私は躊躇いなく頷いた。本当に知らない。こんなチャラそうな男の子に知り合いなんていない。

すると彼は「マジで〜!?」と悲鳴じみた声で叫んだ。

「うっわー、ショック!俺、この学校では結構、有名な方だと思ってたのにー」

その言葉に驚く。

「ここの生徒なんですか!?」

私の素っ頓狂な声に、今度は彼が「えっ!?」と、驚いた。

「そういうこと言っちゃうの!?生徒じゃなかったら、何なのさ!?」

私は少し考えてから、小さく答えた。

「OBかな…って」

その回答にも、彼は驚き、頭を抱えて「OB!?」と大声を上げた。

「OBって、イミ分かって言ってる?卒業生だよ?俺って、そんな老けてた!?」

一人でまくし立て始めた。私は首を捻り、「だって、私服だし…派手だし」とぼそぼそ答えると、彼は呆れたようにため息をついて、「私服着てハデだと、OBなのかよ?」と膨れっ面をした。

「いえ…そーじゃなくて」

悪気はなかったんだけどな…。

返事に困っている私に、救世主が現れた。

「瀬戸さん?」

急に、女の人の声が名前を呼んだので、私は自然にそちらへ視線を投げた。
廊下の奥から、一人の女性が私達の方へやって来る。
音楽コース担当の、橋本先生だ。
橋本先生は去年、新任でこの学校にやってきた若い先生だった。嫌みの無いサバサバした性格。さらには美人でスタイルが良いので、音楽コースの男子生徒の憧れの的だ。
橋本先生は、私の困っている表情を見て、慌てて駆け寄った。

「どうかしたの?トラブル?」

心配そうな先生の声を聞いて、少し安心した。先生は首を傾げて、それから彼を見た。

そして驚く。

「佐野君!?」

サノ君?

『佐野君』と呼ばれた彼は、橋本先生を見ると、ニッコリ微笑んだ。

「どーも、久しぶり。橋本センセー」

ヘラヘラした口調でそう言うと、先生はムスッとして腕を組んだ。

「久しぶり、じゃないわよ。ここで、何してるの?」

厳しい声で問いただす先生に、彼は相変わらず「なにって、ナンパー」とヘラヘラ答えながら、私の肩に手を回した。急に身体を引き寄せられたので、私は反射的に彼の身体を押しやる。

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