《MUMEI》

殺鷹は、至る所が軋む身体を何とか起こし、白鷺の身を抱き起こしてやった
「白鷺。何故君がこんな奇行に走らなければならなかったのか、説明してはもらえないか?」
事の本質はそこにある様だととの殺鷹に
白鷺は口を開きかけて噎せ返り、だがゆるり話す事を始める
「……以前の落日で、あの人は消えてしまった。私はこの数年間、あの人が帰ってくることだけを考えて……。そうしたら、ある日あの子が私の前に現れたの」
「あの子供か?」
「そう。あの子は言ったわ。また世界が落日を迎えさえすれば、彼は戻ってくるって。」
「その言葉を、君は信じたのか?」
「だって、彼は私達の創造主だもの。身体が彼を求めていたの、だから私……」
白鷺が語り始めたのは今に至る過去
殺鷹にも心当たりがあるのか、その眼が微かに見開いた
「……鳶(とんび)か。君はまだ――」
溜息混じりの殺鷹に、だが白鷺が見せるのは微笑
ソレは、誰かを愛した時女性が浮かべる至福に満ちた笑み
何度もうわ言の様に呟きながら、降り積もって行く白花へと手を伸ばす
「……戻って、きて。あなたの為、あなたの為に私は……」
求め、その存在を乞う手を殺鷹は取ると
多量出血ゆえに段々と冷たくなっていく白鷺の身体を抱いていた
「落ち着きなさい、白鷺。もう君の愛した人は、鳶は居ないんだ」
言って聞かせてやりながら
だが白鷺の耳には聞こえてはいないのか、殺鷹の腕を振り払おうとしながら尚も(鳶)の名を呼び続ける
「落日さえ、落日さえ迎えれば、あなたは戻って来られ……」
「相変わらず、馬鹿なことしか考えない女ね」
途切れ途切れの白鷺の声を遮るように
背後から、ひばりの声が鳴った
そちらへと向いて直れば、烏を連れた雲雀がそこに立っていて
血に塗れ横たわる白鷺を、顔色一つ変える事はせず眺める烏
暫く眺め、暫くあとに烏の頬に涙が伝う
悲しい訳ではない
だが、何故か止められない涙が梟の頬を次々に伝っていく
止められない涙に何度も目を擦っていると、突然殺鷹に抱かれた
「……たか?」
「君は優しい子だ。本当に……」
「この人、苦手。でも、痛いのは、辛いから」
言って終わりに、烏は宿り木の頂を見上げる
「……梟」
上を見据えたまま小声で呟くと、烏は突然に土を蹴る
飛んで上がり、向かうは宿り木の頂だ
「烏!?」
突然の烏の行動に、叫ぶ雲雀の声
只事でない事は明らかで、殺鷹は軋む身体を無理やりに立ち上がらせる
「雲雀。白鷺を頼んでもいいかい?」
「殺鷹?」
「行って、くるよ」
不安げに表情を曇らせる雲雀へ
殺鷹は穏やかな笑みを向けてやり、烏の後を追った
思う様に動いてはくれない身体、だが何とか頂へと辿り着けば
そこに、烏と梟、そして雀の姿があった
「来たね、黒の鳥。なら始めようか」
声に反応するかの様に、突然吹き付ける風
ソレに揺らされ、宿り木全体が騒ぐ様に葉の擦れる音を立て始めた
舞い散る白花の花弁が辺りを覆い尽くし、視界さえも白く染めていく
漸く花弁が薄れ、そして見えたものは
大量の花の蔓に身体を貫かれている梟と烏の姿だった
「これは、一体……」
状況理解が出来ず、その様の異様さに声を漏らす殺鷹へ
雀は声も高々に笑う事を始める
「……鳶が。目覚めるよ」
梟と烏
双方の身体から蔓が全て引き抜かれ、流れ出す血の代わりにそこから大量の花弁があふれ出てきた
それらは花雨と化し、降る花弁の向こう側に
朧げにヒトの影が見える
見えたソレは、白鷺が切に求めたその人物のモノだった
「……落日、か。何も、変わってはいないな」
周りの景色を一頻り見回した後の声
憂う様なそれに、だが殺鷹は警戒心を解く事はせず左手に銃を構える
「殺鷹、久しいな。以前の、落日以来か」
「本当に、久しぶりだ。まさかこんな処であなたに会えるなんて思ってもみなかったが」
皮肉めいた殺鷹の言葉
鳶は微かに肩を揺らすと、その殺鷹の言葉を真っ向から否定する
「……嘘だな。お前は感付いていた筈だ。あれが、白鷺がこういう行動に出るという事を」
「そう仕組んだのはあなただろう?あの子供たちを使って、落日を迎える様にと」
「梟と烏か。だが、そうするよう仕向けたのは私ではない、雀だ。あれのおかげで、儂は今此処に居る」

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