《MUMEI》 宿り木から眼下を見下ろし、さも楽しげに鳶は笑う 一体何がそんなに愉快だというのか 理解出来ない殺鷹は、不快感しか感じられない 「落日は全てを無色に返す。白も黒も無く全てが平等だ」 「無色、それがお前の望むものか?」 「そうだ。白鷺には感謝している。世界の均衡を崩し私の望む世界を作りやすくしてくれたのだから」 楽し気に笑う鳶へ、殺鷹は溜息を一つ 一瞥をくれてやりながら 「白鷺はずっとお前を思っていた。以前の白日の日、お前が白に呑まれ姿を消してしまったあの時から」 「もう、過去のことだ。全て、な」 全てを突き放すような物言い 返す言葉が最早見つからない殺鷹は 無表情で鳶と対峙しながら徐に懐へと手を入れる 其処から取って出した銃に弾を込め シリンダーを閉じたと同時に鳶へと銃口を向けていた 「……もうやめなよ。黒の鳥。ほら、見てみなよ」 互いの間へと割って入ってきた雀が下を指差す そこに見えたのは大量の人の群れ その全てが瞬間に鳥へと姿を変え宿り木を覆い始めた 「……雲雀!?」 木の麓に居た筈の雲雀と梟 その姿が鳥に覆われ見えなくなってしまい、殺鷹の意識がそちらばかりに削がれた 瞬間的に出来たその隙を、衝かれない筈がない 「よそ見をするとは随分と余裕だな。黒の鳥」 背後で聞こえた鳶の声に気付き首を巡らす が、反応が間に合わずに背を強く蹴りつけられ殺鷹の身体は宙へと投げ出された だが痛みすぎる身体に何が出来る筈もなく そのまま下へと落ちていくしかない 高すぎるそこから落ちた殺鷹の身体は、派手な音をたて地面を砕き、そして落ちた 「……殺、鷹?」 落ちた所は、偶然か雲雀の目の前 最早まともに手足すら動かせず、微かに痙攣を起こすばかりの殺鷹を前に 雲雀の眼が見開く 何かを言い掛けて、だが引き攣った声の音しか発する事の出来ない雲雀の頬へ 殺鷹の手がゆるりと触れた 「私は、相当に馬鹿の様だね。状況理解がこれ程まで出来ないとは」 無理やりに浮かべた笑みは何とも弱々しく 普段の殺鷹にはない脆さが伺い知れた 弱々しい彼を見るのは心苦しくて 表情の不安が更に色を増す どうすればいいものかと薄れ行く意識の中で何とか思考を働かせ そして 「……黒の花、か」 何かを思い立ったかの様に呟きながら殺鷹は動かない身体を無理やりに起き上がらせていた どうしたのかを雲雀は問うて だが殺鷹は返す事はせず、唯微笑んで向けると雲雀の頬へと口付ける 「私の主。(羽根)を使う事を、今だけでいい。許してはもらえないか?」 柔らかく、慈しむような口付けを交わしながらの懇願に 雲雀の眼が瞬間見開いた 「……殺鷹、もしかして――」 「今は、花の均衡さえ取れればいい。そうすれば、何とか出来るはずだから」 雲雀が言うより先に、殺鷹は自身が何をしようとしているのかを遠まわしに語る ソレを理解したらしい雲雀が、頑なに首を横へ振る事を始めた 「それは、駄目。そんなことしたら殺鷹――」 「無事では済まないだろうね。しかし、これ以外に最良の策が思いつかなくてね」 「でも……」 「あの子たちも、きっと助けられる」 だから頼む、と微笑んで向ければ その穏やかな笑みに、それ以上の否を雲雀は言えなくなってしまう 「……馬鹿鷹」 そう毒づいてやるのがやっとで、雲雀の唇が殺鷹のソレへと触れた 次の瞬間 殺鷹の背が音を立てながら裂け、そして大量の黒花がそこから生えて現れた 羽根を形どったそれを背に負って 殺鷹は雲雀へと笑んで向けると、また宿り木の頂へと飛んで上がった 「懲りずにまた来たんだ、黒の鳥。何をしようともう手遅れなのに」 着くなり向けられた嘲りに、殺鷹は何を返す事もせず 無表情で雀を睨めつけるだけ 「まだ、抵抗するんだ。往生際悪」 更に嘲笑を向けられ、そこで漸く殺鷹が行動を起こした 瞬間、雀との間合いを詰め だが雀には何を仕掛ける事はせず、寸前に雀を飛んで越える 其処に居たのは、鳶 勢いはそのまま、殺鷹は足を蹴って回す 脚先に感じる何かを蹴りつけた感覚 鳶の身体が、後方へと跳ねて飛んだ 前へ |次へ |
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