《MUMEI》

「これでしょう」
ルナがスケッチブックを差し出してきた。帰り際さっさといなくなったと思えば歩道橋に潜んでたようだ。

なづきはスケッチブックを黙って引ったくる。
「……マゼンタ諦めたの?」何気なく言う。


「アレは貰うよ。
考えたんだ。マゼンタに優しくしてあげて親交を深めた方が譲与率があがるということに!」

「私が、アンタと?」

「ルナでいーよー」

「阿呆か!私にやってくれた暴挙を含めた上で言ってるの?」

「あんなにボコボコにしたくせにまだ根に持ってるの?水に流そうよ」
ルナの言葉の中でなづきは気が付いてきた。

「……アンタなんか、アンタなんか、」
なづきはルナにいつだかのように飛び掛かる。

ルナは倒れて地べたに背を着いた。彼の腹辺りを跨いで薄い胸板に弱々しい拳をぶつけた。
「キライ、だいっキライ……」
なづきはこんな男一人の一挙一動に振り回される自分が惨めになる。涙が出てきた。こんなのは自分では無いのに、と思った。

「眼鏡……いつも付けてるけど外さないの?」
ルナはなづきが泣いていることを気にも止めず言う。なづきの眼鏡を外す。


「……お腹空いた……」
ルナはなづきに訴えかける。彼の黒目が少し茶色がかっていることになづきは気が付く。

なづきの頬に生暖かいものが触れた。
ルナのニオイがする。


「……塩辛い。」
ルナはなづきの涙の味の感想を述べた。

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