《MUMEI》 愛は会社を救う(35)知子をアパートまで送り届け、自分はマンスリーマンションの前でタクシーを降りた。時計はまだ午後9時を回っていない。 エントランスの前で、内ポケットからカードキーを取り出すと、背後に尋常ならざる人の気配を感じた。 「相変わらず仕事が速いのね」 振り返ると、タイトな黒いパンツスーツの女が、腕組みをして立っていた。 "K"だ。 「丸ぽちゃの女の子をたらし込んだと思ったら、今度はハイミスの人生相談。少し、お遊びが過ぎるんじゃなくて?」 ヒールの音を響かせながら、しなやかなシルエットがゆっくりと近付いて来る。マネキンのように無機質な美形が、ライトに照らし出される。 「私は私のやり方で、自由にやらせてもらう」 Kを前にすると、私はいつも言い様の無い苛立ちを覚えた。 彼女は"ホーソン"から送り込まれた監察員だった。 前へ |次へ |
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