《MUMEI》

遠くから微かな音が聞こえてきた。そしてそれは徐々に大きくなってくる。間違い無く鉄騎(自動車のこと)のエンジン音だ。

ヴァンの拠点『ホーム』はフォース第一大陸の辺境にある為、ヴァンに用事が無い限りは決して人など訪れない。

となればあの鉄騎の運転手はヴァンへ依頼をしに来たのだろう。ヴァンを襲撃するという選択肢もあるが、だとしたらこんな堂々と来る訳がない。

「……ちっ、間の悪い……。しかもこんな早くに来るとは……」

などと悪態を吐いたところで(おそらく)依頼者が帰ってくれる筈もない。追い返すにも問答無用とはいかない。取り敢えず迎えなければ。

ヴァンは手奴や剣を片付けると『ホーム』の門に向かった。

「……ヴ、ヴァンデクス・ペネトレイター……だな……!」

鉄騎から下りてきたのは若い男だった。一応強気な態度ではあるが、ヴァンと向き合っているだけで少々ビビり気味な辺り小心者なのだろう。

「……依頼か。」

手短に済ませたかったヴァンは間をいくらか省いた。

「お、おう……じゃなくて! ま、まず俺の質問に答えろよ!」

しかし依頼者は最初のことに拘っている。割とどうでもいいことなのだが。やはりビビり過ぎで少なからず混乱しているようだ。

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